東京総研及び元森公認会計士・税理士事務所の掲載記事情報

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当社が、日本経済新聞
「高まる支援ブーム 脱サラ資金の最新調達術」の記事に紹介されました(下記の下線部分)。

2000年3月19日 掲載

終身雇用制が崩れ、企業のリストラが進むなか、脱サラして独立しようと考えたことがある人も多いのではないか。官民の起業支援策が拡充され、情報技術(IT)関連事業などへの投資ブームも盛り上がり、資金は以前よりはるかに調達しやすくなっている。それだけに安易な事業計画でスタート すると、多額の負債を背負い込んだり、マネーゲームに巻き込まれたりしか ねない。失敗しない起業資金の集め方を探った。

東京都内の早稲田大学にほど近い雑居ビルの四階。まだ表札はなく、机とノート型パソコンしかない小さな部屋が発足まもない新会社の本社だ。設立したのは大手コンピ ューター会社に十年勤めた実籾(みもみ)富二男さん(38) ら七人。いずれも最近まで広告代理店や商社に籍を置いていた脱サラ組の面々だ。

七人は早稲田大が社会人向けに設けた起業家育成のための大学院に通っており、そこで教授などを介して知り合った。持ち前の経験に加え、二年の間に財務などの知識を養い、何ができるかをじっくり考えて人脈も広げた。同大学院の第一期生として卒業するのを機に二月末、インターネ ット関連事業を立ち上げるこ とにした。(左下へ続く)

一番心配だったのは資金調達。だが、以前の取引先や同級生を訪れて新規事業の説明をしたところ、手ごたえは予想を上回り、半数が出資してくれそうだという。IT関連という成長が期待される事業分野でもあり、「内容と計画 がしっかりしていれば資金調達は問題ではない」というのが実籾さんの印象だ。今後のソフト開発にかかる数千万円の事業資金はベンチャーキャピタル(VC)を含む第三者からの出資で賄う。

まずセミナーに

少し前までなら、脱サラによる独立・起業には、第三者の出資はほとんど期待できず、公的機関による融資や親せきの援助に頼らざるを得ないのが一般的だった。ところ が、低金利と折からの起業支援ブームが重なり、資金調達の環境はよくなっている。

独立を目指す際の業種としてはIT関連などのベンチャー企業に注目が集まっている が、件数で圧倒的に多いのは 依然、建築設計や居酒屋などの開業だ。

独立を考え始めたら、都道府県などが催す各種創業・ベ ンチャー企業支援策のセミナーなどに参加してみよう。アイデアを熱く語る人は多いが、それが事業として成り立つかは別問題だ。「財務に暗く、自分の給与を見落とすと いったミスも結構多い」(東京中小企業投資育成)。競合他社の動向や市場などを見据えた事業計画を立てるのはなかなか難しい。

この種のセミナーは四月以降、開催回数が大幅に増え、 内容も拡充される予定。資金調達を含めて善業の成否を分ける事業(開業)計画書の中身を分析・評価してくれるほか、独立に向けた具体的な手順、利用できる融資などを教えてくれる。また、中小企業総合事業団は「中小企業・ベンチャー総合支援センター」の設置を進めており、その窓口に相談するのも一法だ。

公庫なら年2.2%

次に資金調達。公的な融資として最も一般的なのは国民生活金融公庫の新規開業ローンだ。九九年度は件数ベースで前年度比10%ほど増える見通しで、毎月平均で約二千五百社が融資を受けている。

代表的な融資である新規開業特別貸付の場合、融資限度は七千二百万円(うち運転資金 は四千八百万円)。 超低金利を反映し、年二・二%の利率で借りられる。設備資金なら十五年、運転資金なら七年以内に返せはよく、それぞれ据え置き期間が三年、一年ずつ設けられている。

一定の条件を満たせば、無担保、保証人なしで最高五百五十万円まで借りられる新規開業者経営改善貸付(マル経)や、通産省、中小企業総合事業団などが用意した最高五百万円までの助成金もある。また、中小企業金融公度は二月、社債を引き受けて資金を供給 する特別融資を設けた。東京都の創業支援融資なら一企業三千万円まで年率二・一%以 下で借りることができる。

ただ、国民生活金融公庫の融資には保証人または信用保証協会の保証が必要だ。新規 間業特別貸付枠は七千二百万円だが、大抵は保証人一人に つき千万円を融資の限度と し、さらに多額の融資になると土地などの担保が求められる。業種によっては保証協会の保証対象外になるので、要注意だ。

またいくら低金利とはいえ、融資であれば返済義務があることを忘れてはならない。返済計画については無理がないかなどを含めて公庫では相談に乗ってくれる。

一方、大きな成長性が見込まれるITやバイ オ関事業を手掛けるとなると、資金調達事情はがらりと変わるケースがある。ひとことでいえば起業側の買い手市場。実績や実際に提供する商品・サービスがなくても、将来成長する可能性が見受けられれぱ、VCや機関投資家、個人までがこぞって出資する傾向が強まっている。起業する側が出資者を選ぶといった事態さえ珍しくない。

未上場企業のコンサルティングなどを手掛ける東京総研(東京・千代田)の社長で、公認会計士でもある元森俊雄さんは「昨年のマザース創設、ナスダック・ジャパン構想が 個人のベンチャー投資に火をつけた」と分析する。有利な投資先を求める富裕層の個人資金が独立する個人に集中 し、流動性がない未上場企業の株式が額面の数倍から数十倍で取引されることもあるという。

「うちも昨年末の増資では 額面の数倍でお願いしました」と話すのは、今月から営業を始めたアケセス(東京・ 千代田)の堀江淳一社長(43)。堀江さんはアメリカン・エキスプレス・インターナショナルの元社員。97年に独立し、無線を利用したカードの決済システムの開発、販売にこぎつけた。営業開始を前に、昨年から出資を申し出るVCが殺到し、増資では額面の数倍で、あるVCから二億円を調達した。

出資の意図把握

こうした状況を「出資は返済義務はないが、経営に関与する権限を与えるようなもの。資金の性格を見極めなくては、せっかくの好環境もあだになりかねない」(国民生活金融公庫の中山幸夫新規開業支援室長)と危ぶむ向きも ある。

安易に出資を受け入れていると安定株主が少なくなり、 気付けば上場した途端に経営者が解任されたり、独立したのに特定の企業グループの傘下に収められてしまう可能性もある。

堀江さんも「出資者とは、自分のスタイルで経営をやらせてくれるよう事前に十分話し合っている」という。出資者を選ぶ場合は互いの意思を確認し合うことが不可欠。資金の出所が不透明だと感じたら再考するべきだ。また、公認会計士などに相談すれば、経営者の自己資金が少ない場合の対処法なども教えてもらえる。一般には安定株主比率を60%程度確保したいという。

事業を成功させるには資金計画だけでなく、周到な用意も欠かせない。冒頭の実籾さんらは会社員時代の経験を生かせる分野の新事業を選び、大学院で経営の基礎をじっくり身につけた。上の表に挙げた。項目をチェックしながら慎重に検討し、準備を進めることが必要だ。 (マネー&ライフ取材班)